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フェンシングのアタック権(攻撃権)とは

昨今のコロナ騒動がおさまらず、オリンピックも延期となってしまい、フェンシング界にとって厳しい時期が続いています。
4月から新しく新入生を迎え、新入部員を獲得して新体制が始まるはずの各学校フェンシング部も、予定と違う状況を余儀なくされています。

さて、そんな中ですが、フェンシングを新しく始めたい人向けに、今回は「アタック権(攻撃権)」というものをご紹介します。

アタック権とはつまり、優先権

はじめに言ってしまいますが、このアタック権というルールは、川崎フェンシングクラブでメインとしてやっているエペには存在しません。
あくまでもフルーレとサーブルだけに適用されるものです。
ただ、まだまだ「初心者はフルーレから始める」という日本フェンシングの基本は変わりませんので、新しくフェンシングを始める人がまず最初に当たる壁だと思います。

フェンシングでは「電気審判機」というものを使いますので、相手の有効面を突けば色ランプがつきます(無効面は白ランプ)。
では色ランプがつけば必ず得点になるかと言えば実はそうではなく、エペ以外のフルーレとサーブルでは、色ランプがついても自分の得点にならないことがあるのです。

それを左右するのが、アタック権です。

このアタック権というものは言ってみれば優先権ですので、両者が同時に突いてランプが両方ついた時にしか意味はありません。
片方だけにランプがついた場合は、どういうアタック権であったとしてもそのランプ通りになるので、白ランプであれば無効面で得点無し、色ランプであれば得点になります。

つまり同時に両者が突いて同時に両方のランプがついた場合、どちらかにアタック権があれば、そちらが優先されるのです。

どちらかにアタック権がある場合は、両方のランプがついても、アタック権のある側のランプしか意味を持ちません。
アタック権のある側が色ランプがついた場合、そちらの得点になります。
アタック権のある側が白ランプの場合、無効面なので得点は入らず、その場から再開になります。
どちらの場合でも、アタック権のない側のランプが白だろうが色だろうが、一切関係はありません。

アタック権を手に入れるにはどうするか

アタック権を自分が手に入れるためには、原則として2つの方法があります。

まず基本になるアタック権を手に入れる方法は「相手より先に攻撃をする」ということです。
これがアタック権を手に入れる為の、基本中の基本、全ての始まりになります。

この「相手より先に攻撃をする」というのは実は簡単な基準ではなく、「何をもって攻撃になるのか」という難しさがあります。
しかしこのコラムを読む中心になるであろう初心者のフルーレの人のために分かりやすく言えば、まず前にでることそのものが攻撃のスタートになります。

ですから例えば、プレアレで試合が始まった後、片方が前に出て、もう片方はそのままその場に止まっていて、そして両者同時に突いて両方色ランプがついたとします。
この場合、前に出たほうがアタック権を持っていて得点になり、止まっていて相手が来たのでただ剣を出した側は、得点にならないのです。

もうちょっと難しいパターンを見てみましょう。
プレアレで始まった後、両者同時に前に出たとします。右の選手が少し早く突き出して、左の選手が遅れて突き出したとします。
この場合も、前に出るまでは両者同時だったのですが、剣を突き出す動作が早かった右の選手が、その瞬間からアタック権を得たのです。遅れた側にはそれがありません。
ですのでこれは、右の選手の得点になります。

さらにややこしいパターンを見てみましょう。
プレアレで両者同時に前に出て、右の選手のほうが早く剣を突き出しましたが、左の選手のほうが腕を伸ばすのが圧倒的に速く、遅れて伸ばし始めたのに先に突いた場合は、どうなるでしょうか?
この場合、上の例と同じく、右の選手のアタック権、右の選手の得点になります。
アタック権が生まれるのは突いた瞬間ではなく、突くために剣を出しはじめたタイミングです。そのタイミングが早いほうがアタック権を持っているため、遅れて出し始めた側がどれほど速く先に突こうとも、先に伸ばし始めた側が権利を持っています。
これは裏を返せば「一度アタック権を取ってしまえば、後はゆっくりでいい」という事にもなります。ここが、一段上のレベルに行くかどうかの分かれ目にもなってくるでしょう。

よりややこしいパターンでは、「足が前に出るのは少し遅れたけど剣を突きに行くタイミングは早かった場合はどうか」とかその逆のパターンもあり、シュルラプレパラーションというとても難しい判定があるのですが、初心者には難しい為ここでは説明しません。
初心者の場合まず徹底すべきは「相手より先に攻撃する」ということと、「相手が先に攻撃してきたら、遅れて合わせない」ということになります。

アタック権を奪い取るには

相手が先に動き出してアタック権を取った場合、これに対してもうどうにもできないかと言うと・・・実はそうではありません。

アタック権は相手から奪い取る事ができます。

このアタック権を奪い取る最も基本の形が、相手の剣を叩くことです。
相手がどんなに先に攻撃をしかけてきたとしても、相手の剣を自分の剣で叩いてから攻撃すれば、叩いた側がアタック権を持ちます。

たとえばプレアレで右の選手が前に出て先に攻撃をし、左の選手はその場に立っていたとします。
右の選手が剣も先に伸ばしはじめて攻撃しますが、左の選手はその場で右の選手の剣に自分の剣を当ててから遅れて突いて、両者色ランプがついたとします。
この場合、左の選手のアタック権、得点となるのです。

これはフェンシングを始めたての子供が「とにかく先に行けばいいんだ!!」とただ突っ込む事を覚えた時期にはまりやすいポイントです。
とにかく先に行けばいい!と自信満々に剣を伸ばしてくるので、待ってる側はその剣に当ててから突けばいいだけなのです。
「叩かれると権利を取られる」という事を知らないと「?????」となるばかりなので、同じパターンを繰り返して負けてしまうこともしばしばです。
こういう時、剣を当ててる側は「はい、いらっしゃーい」と内心叫んでいたりします。いやらしいですね。

つまり、攻める側にとっては、先に攻撃を仕掛けたとしても途中で剣を当てられてしまえば意味が無いのです。
そのため、これを避ける為のディガジェやクーペなど、相手の剣をよけていく技術が色々とあります。
また、攻めているつまり既にアタック権を持っている側が剣を叩いた場合、そのまま自分が継続して権利を持ちます。
そのため、むしろ自分のほうが相手の剣に当てていく攻撃もあります(アタックオフェール)。

フェンシングを始めて、アタック権を最初に理解した子が陥るのが「突っ込み厨」とにかく突っ込むことです(本来よいことですが)。
次に権利を奪うことを覚えた子が陥りがちなのが「叩き厨」で、とにかく執拗に相手の剣を叩き続けます。

でも、忘れないでください。アタック権は、あくまでも両者が同時に突いて両方のランプがついている時だけに適用されるルールなのです。
権利欲しさに執拗に相手の剣を叩いている間に相手に真っすぐに突かれてしまい、相手を突けずにランプがつかない・・・という状況をよく見ます。
「権利を持っているから遅くてもいいやー」とゆっくり突きすぎて、ランプがつかないなどもよくあります。
あくまでも相手と同時に突いたからこその、アタック権なのです。

同時だった場合はどうなるの?

プレアレと同時に両者が同時に前に出て、同時に突いた場合。これは優先権は存在しないため、フルーレの場合はどちらにも点が入りません。
エペだけは両者に点が入る事がありますが、フルーレとサーブルではふつう両者に点が入ることはありません。

これは相手の剣を叩いた時も同様で、両者が同時に相手の剣を叩いた場合、どちらも優先されません。
ただし例えば、右の選手が前に出て、左の選手はその場に止まっていて、最後に剣を両者同時に叩いて同時に突いたとします。
この場合は、前に出た右の選手の得点になります。
右の選手は、前に出た時点で既にアタック権を持っているのです。その後両者同時に叩きますが、同時に叩くということは剣を叩いた事でアタック権の移動が発生しないため、前に出た分のアタック権をそのまま持っているのです。

ちなみに剣を叩くアタック権の取り方は、先に攻撃をするのと違い、「最後に叩いたほうに権利がある」ということになります。
したがって、右の選手が50回剣を叩いた後に突こうとしたとしても、左の選手がその後の最後に1回だけ剣を叩けば、左の選手のアタック権になります。
そのため初心者が審判をやるときに難しくなるのが、「どちらが叩いたか」という点と、「どの叩いたのが最後だったのか」という点の見極めになります。

アタック権を失う時

アタック権は一度手に入れれば剣を叩かれない限りずっと持っているかといえば、そうではありません。
アタック権とはつまり「攻撃をする権利」ですので、「攻撃をしないと失う」のです。
これは「攻撃を終了した」とみなされても失います。

例えば、プレアレと同時に右の選手が猛然と前に出て、左の選手は止まったままだったとします。この時点ではアタック権は右の選手です。
しかし突きに行く直前、あと一歩ほどの距離で右の選手が立ち止まり、そこで左の選手が一歩前に出て、同時に突いたとします。
この場合は、左の選手のアタック権、得点になります。
右の選手は最初に猛然と前に行った瞬間はアタック権を持っていたのですが、立ち止まったところで「攻撃が終了した」とみなされ、そして左の選手が一歩前に出たところで左の選手がアタック権を得ているのです。

では両者立ち止まっているとどうなるか。
プレアレと同時に右の選手は前に出て攻撃が届く距離に行ったものの、攻撃せずに立ち止まります。
左の選手もそこで前には出ず、しばらく立ち止まったまま・・・の後に両者突きます。
そうするとこれは両者立ち止まっている間は権利を持っていないので、最後に突きにいった時にアタック権が発生しますので、同時であれば引き分けで点は入りません。

そしてアタック権は「攻撃を終了」しても失います。
プレアレと同時に右の選手が猛然と突っ込んで行きます。もちろん右の選手のアタック権です。
そしてさぁ攻撃!突きに行くのも右の選手、左の選手は微動だにしません!
ところが!そこで右の選手がまさかのパッセ、攻撃を思いっきり外してしまってなんのランプもつきません。
慌てて突きなおす右の選手と同時に、左の選手も突いて、両者色ランプがついたとします。どちらの点でしょうか?

答えは、左の選手の得点です。相手がただ外しちゃったのでその後に突いただけでも、得点になってしまうのです。やられた側は、最も虚しい瞬間です。

アタック権のあるフルーレやサーブルの場合、「攻撃は順番にやる」という原則があります。
そのため、一度攻撃を終了すると、今度は相手の攻撃のターンになりますので、自動的に相手がアタック権を持ってしまうのです。
右の選手が一度攻撃を外してしまうと左の選手がアタック権を持っているため、慌てて右の選手がもう一度突き始めるのがちょっとくらい早かったとしても、左の選手の突きがランプがつく程度に間に合えば、左の選手の得点になります。

この自動的に持ったアタック権がいつまでもつか、というのは実はとても難しい判断で、アタック権というのは「攻撃をしないと失う」ため、右の選手が外した後にしばらく時間が経ってから両者突くと、どちらも権利が無いとみなされます。
ここは初心者にはとても難しく、究極的には審判次第でもありますが、基本的には「攻撃は順番、一度外せば次は相手が権利を持つ」と覚えましょう。

ちなみに相手の攻撃を返すことを「リポスト」と言いますが、相手の攻撃を受け止めて返すのが「パラードリポスト」、避けて(勝手に外れるのも含む)返すのを「ノンリポスト」といい、どちらもリポストになります。

素早くアタック権を理解して、フェンシング部の同期に差をつけよう!

フルーレやサーブルをやる選手にとって、アタック権をどのくらい素早く理解できるかは、成績に大きく結びつきます。
アタック権が今どうなっているのか常に意識し、分からないときは審判に確認して、なぜアタック権がそこにあるのか、を理解しましょう。

将来サーブルをやってみたい場合などはここが顕著で、とてつもなくシビアなアタック権の感覚が必要ですので、早めから意識しておくことをお勧めします(1回剣を振るだけでアタックノンつまり攻撃終了したと言われたりします)

そしてもう1つ忘れてはならないことを。

フェンシングは、最後は相手を突かねば意味がありません。
華麗なパラードで相手の攻撃を受け止め、巧みすぎるプリーズオフェール(前で剣を当てること)で権利を奪い、優雅に権利を保ったまま前に出たとしても。
最後に突くときに無効面の白ランプさえもつかなければ、権利を全く持ってない相手にやられてしまうのです。
攻撃が終了するとアタック権は失いますが、そこであえて突きに行く「ルミーズ」という技があります。権利を持ったからといって油断しきっている相手には「権利なくてもいいから突いてしまって後は逃げれば良い」という考え方もあるのです。
「どうやってリポストしてやろうかなー」と考えてる間に突かれて「順番守れよ!!!」と涙目で叫ぶ人を見た事がありますが、ランプがつかなければそれまでです。

アタック権はとても大事なのですが、相手の剣を必ず避けて相手のランプをつけさせないスキルがある人には、実は全くいらないものだったりもします。
初心者から脱却する為にアタック権を知る必要はありますが、その先には「あえてアタック権を無視する」という世界もあるのです。
そこに向かっていくためにも、まずはアタック権がどういうものであるか、きちんと理解していきましょう。

(ライター:MUSYA)



 

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