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エペこそがフェンシング

かつて日本ではフルーレこそが全てだった

フェンシングには、フルーレ、エペ、サーブルという3つの種目があります。

このうちサーブルは、騎馬民族の戦いがルーツになっているといわれ、そのため有効面が今でも上半身だけになっています(下半身を狙うと馬を傷付けてしまうおそれがあるため)。
サーブルはフェンシング3種目の中で唯一、斬ってもよい、というよりむしろ斬るのが主体となる種目ですから、他の2つの種目とはだいぶ一線を画しています。

エペは貴族の決闘に用いられた言わば1対1の決闘手段として、騎士のたしなみとされたものであり、フェンシングの本流と言ってよいものです。
対するフルーレはエペの練習用の種目ともいわれ、エペよりは軽い剣で剣の応酬を学ぶ、そのために「攻撃を受けられたら、今度は相手の攻撃を受ける」という順番を尊重する、そんな攻撃権が設定されています。

しかし日本では、太田雄貴がオリンピックのフルーレでメダルを取るはるか前から、フルーレがフェンシングの中心でした。
そのため、入門者は誰もがフルーレから始め、エペやサーブルをやりたくても「お前にはまだ早い」などと言われ、インターハイ団体戦もフルーレのみ、個人戦もフルーレは各県2人ずつでもエペサーブルは各県1人ずつ、その他の大会ではそもそもフルーレしか開催されない、という状況でした。

そのためエペとサーブルはまとめて「種目」と呼ばれ、「フルーレで勝てないからエペやサーブルに逃げる」といったイメージが強く、「フルーレにあらずばフェンシングにあらず」という実に差別的な感覚が蔓延していました。

しかし、サーブルは斬ってよいという特殊な動きが決してフルーレのそのまま延長線上には無く、また世界ではエペこそが主流のものでした。
ですから、特に昔のフェンサーは3種目すべてやるのが当たり前でしたから「フルーレで強い人がなんだかんだ一番強い」という感覚も色濃くありますが、それは才能ある人がフルーレに行く比率が高かっただけの話であり、そういう強い人が「フルーレっぽいサーブル」や「フルーレっぽいエペ」をやっても勝ててしまった、というだけです。

しかし現代になってだいぶ、変わってきました。
特に日本フェンシング界で今もっとも熱いのは、エペと言えます。
日本のトップ選手はついに世界のトップレベルで戦えるようになり、層の厚いエペの世界で、立派な成績を残しています。

エペの良いところ

さてそんなエペですが、フェンシングが今後スポーツとして自立したものになっていくために、とても重要なものだと思います。

その理由はとてもシンプルで、「ルールが分かりやすい」ということです。

フェンシングの他の2種目には、「アタック権」というとても厄介なものがあります。知らないとどちらの得点になるのか、ほとんど分かりません(フェンシング経験者でさえ分かってない事も少なくありません)。

それに対してエペはそんなものは無いのです。
とにかく突いたら得点。早い者勝ち。
同時に突いたら?同時に両方に得点です。
これは誰が見ていても分かります。

また、サーブルの有効面は上半身だけ、フルーレの有効面は胴体だけですが、エペは全身どこでも有効です。
これは動きのダイナミックさにも繋がります。頭でも爪先でも有効ですから、足を突きに行くとても低い姿勢から、飛び上がって背中に振り込むような動きまで、実に多彩でワイルドな動きになります。

エペのルールを総括すればつまり「どこでもいいから先に突けば点」なのです。

この圧倒的な分かりやすさは、2つの点で有利になります。

1つは、初心者の始めやすさです。
現在でも日本では、初心者が始めようとするとフルーレを紹介されることがほとんどです。
しかしフルーレは剣が軽いのはいいですがルールはとても難しく、試しに試合をしてみても、まったく楽しくありません。
フェンシングを初めて体験してみた人がフルーレをやり、自分が突いてランプがついているのに相手の得点になり、首を傾げて不機嫌になる、そんなシチュエーションも珍しいものではありません。

しかしエペは違います。突いてランプがつけば自分の得点という明朗会計。
まったく初めてやった人でも「いっちょやってやる」と目をキラキラさせながら攻め込んでくるものです。
さすがにそれで経験者を相手に勝てるほど甘くもありませんが、それでも楽しめることはどんな趣味・娯楽にとっても、最も大事なスタートラインと言えるでしょう。

そしてもう1つの有利な点は、「見ていて分かりやすい」というところです。
他の2種目は、経験者以外は見ていてもまず分かりません。経験者であってもレベルがそれなりに無ければ、トップ選手のジャッジをするのは無理でしょう。

しかしエペは違います。
審判のすることと言えば、「交差したら止める」とか、あとはせいぜい絶縁された外側の床を突いたかどうか、接近戦のドサクサで相手の足に見せかけて自分の足を突いていないかどうかを見るくらいです。
変な話、審判なんていなくても試合ができます。

これは誰が見ていても、自分の応援する選手がどうなったか分かりやすく、見ていて楽しい、という点があります。

ただしエペの観戦での欠点の1つは、なにせ早い者勝ちなので迂闊に飛び込んだりできず、お互いにかなりシビアに間合いをはかっていると、いつまでも似たような距離で動かない睨み合いのようになる事があることです。
特に一部のレベルが低めの層だと「相手が来るのを待つ」と明確に決めていますから、そういう人同士の試合は見ていて面白いわけはありません。
とはいえそんな事をする人はレベルが低い人だけであり、レベルが高くなれば待っているだけの人を調理する技も多彩になりますから待っていてもやられるだけ、見ていて楽しくなります。

今こそエペをフェンシングの中心に!

やってよし見てよしのエペは、どうあってもフェンシングの中心になるべき種目なのです。

この文章をここまで読んできたあなたは、きっと私がエペをこよなく愛し、エペを専門にやってきた人だと思うでしょう?
ところが私はサーブルが専門で、一番愛するのもサーブルなのです!!
サーブルの人がこれだけ推すのですから、エペの良さは本物です。笑

他の2種目は、たくさん寂しい思いをしてきたのです。
フルーレでは、ルールが分かりにくくて今一つ盛り上がりに欠け、挙げ句にすーぐピーピー鳴り出す貧弱な道具によるロスタイムの多さで、お客さんが続々と帰っていく。
あ……待って…………と、それはそれは寂しい思いをしました。

サーブルは動きはアクティブで3種目中最も迫力があるながら、本当にルールが分からない。
フェンシング関係者が10割ほどを占めたかつての全日本選手権の会場でも、会場のあちこちから聞こえる「サーブル分かんね」の声。
涙なくして語れません。

しかしエペは違うのです。
唯一、見合ったまま進まない展開は「ほい、はっけよい」と声をかけたくはなりますが、現在ではノーコンバッティビティという無気力試合の措置もあり、睨みあったまま数分が経過…というかつてのドラゴン*ールのアニメのような展開はもうありません。

エペこそがやはり、騎士の本流であり、スポーツとしてのフェンシングでも本流となるよう、中心に来るべきものです。

機会があればぜひ、エペを見てみたりやってみてください!!

(注:大変恐縮ながら川崎フェンシングクラブでは道具・要員・場所の都合で、体験および入門希望者の受け入れは致しかねます。ご希望の場合は、近隣の他の練習場をご案内させていただきますので、ご了承ください。)

(ライター:MUSYA)



 

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